第14回NIE全国大会
2日目
いつもの学校で学習の成果披露

 第14回NIE全国大会長野大会は31日、長野市内の3会場(吉田小学校、東部中学校、ノルテながの)で分科会を開き、市内の小中高校の公開授業や県内外の教員による実践発表を行った。子どもたちの普段の様子を見てもらおうと、小中学校は校内で公開授業を実施。参加者は汗をふきながら、新聞を活用した授業を熱心に参観し、意見を交わした。公開授業と実践発表の一部、新聞特別分科会の内容を紹介する。

子どもの自然な姿を

 NIE全国大会の分科会は例年、ホールやホテルなどで行っている。今回、小中学校の公開授業は、各校を会場とした。冷房が効かないなど不便もあるが、あえて選択。校外の会場で大人たちが参観しようと構えていると、子どもたちが舞い上がって発言できなくなったり、いつも通りに振る舞えなくなったりする―との心配からだ。
 県NIE推進協議会長で大会の実行委員長を務める渋沢文隆・信大教育学部教授(61)は「普段の活動の様子を見て教育活動について議論するのが、公開授業の本来の在り方。その基本をゆるがせにすると『見せる授業』になってしまうし、やらせにもつながりかねない」と話す。高校の会場も両校近くに設定した。
 両校とも特別な暑さ対策は取らず、見学者にも日ごろと同じ学校の環境で過ごしてもらうことで、より自然な子どもたちの姿を大切にする信州教育のこだわりを参加者にアピールしたいと考えた。


小学校分科会

公開授業「裁判員」記事を通じ考える◆◆◆
               長野市吉田小6年3組 竹内 隆司教諭

吉田小6年3組
裁判員制度について意見を発表し合い、考えた

  「できれば、かかわりたくない。被告の人生を決めるのは怖い」「記事を読んでいろいろな考えがあることが分かった。もう少し考えたい」
 新聞記事を教材として社会科で裁判員制度を学んできた吉田小学校6年3組。公開授業では、裁判員に選ばれたらどうするかや制度への賛否などについて、児童が意見を発表し合い、考えを深めた。
 まずは、これまでの学習のおさらい。担任の竹内隆司教諭が「裁判員はどう決まりますか」「制度はどうして始まったの」と質問すると、児童たちは「くじ引き」「国民の意見を裁判に入れるため」などと答えた。
 続いて、考え方の近い2〜4人のグループごとに意見を発表。識者のインタビュー記事や小学生新聞に載っていた投稿、家族の意見、以前の授業で聞いた司法担当記者や裁判所職員の話を参考に、自分の考えをみんなに伝えた。
 友達の意見を聞いて自分の考えはどうなったか竹内教諭が投げ掛けると、「僕は制度に賛成だけど、反対の意見を聞いて、なるほどと思った。もっと勉強したい」「大事だと感じていることが違った」といった発言があった。
 本年度から完全実施への移行期間に入った新学習指導要領には、裁判員制度を含めた司法教育が位置付けられた。しかし、教科書にはまだ制度についての記載がなく、資料集でもわずかしか扱われていないことから、新聞記事を活用した。
 研究討議では、難しい内容を児童が理解したことへの評価や「裁かれる側に立ったらどうか、児童の本音を聞きたかった」などの感想が出た。

【授業者から】
裁判員制度知る詳しい「教材」

 社会科で憲法や三権分立を学習した後、裁判員制度について12時間の単元を設けました。まず、新聞記事を読んで制度の概要と課題をつかんだ上で、信濃毎日新聞社の司法担当記者や長野地裁の職員を招いて話を聞いたり、裁判所で模擬裁判を見学したりして知識を深めてきました。公開授業では、自分が裁判員に選ばれたらどうするか、根拠も含めて考えを発表します。
 新学習指導要領は6年生の社会科に裁判員制度を含めた司法教育を盛り込むよう明記しています。しかし、本年度版の市販の資料集で扱われているのは1ページほど。資料としては不十分です。より新しく詳しい内容が載っている新聞記事を教材に選びました。
 価値判断や規範意識が各家庭で多様化している現代、子どもたちの社会性を育てるのも学校の役割です。今回の授業が、より良い社会をつくる一員としてどうあるべきかを考えるきっかけになればいいと思っています。

公開授業校内のイベントPR「読みやすく」知恵を絞る◆◆◆
                      長野市吉田小5年3組 長崎 至宏教諭

吉田小5年3組
公開授業の様子。テーマは「『言葉を豊かに味わう子ども』〜新聞作りを通じた伝え合いの中で」

 ※2009年7月30日付の大会特集紙面から、事前の取り組みを紹介。写真(上)は公開授業の様子。
  国語の授業で「よしだアートプロジェクト新聞」作りに取り組む吉田小学校5年3組は、より分かりやすい紙面を目指して試行錯誤を重ねている。「アートプロジェクト」は、同校の校舎を美術館に見立て、児童の作品を展示する8月22、23日のイベント。
 既に発行した第1号の新聞を手直しして今後、第2号を出す。公開授業では、写真に説明文を付けるなど、低学年にも読みやすい紙面を仕上げる。
 多くの人にイベントをPRし、足を運んでもらおうと、これまでもクラスで意見を交わし、紙面の作り方を考えてきた。今月上旬の編集会議では、紹介する展示内容によって記事の大きさを変えるか、議論した。
 「見出しの大きさが全部同じだと迫力がない。トップ記事を決めて、めりはりを付けた方がいい」「どれもお客さんに見に来てほしい。一つだけ目立っても良くない」

よしだアートプロジェクト
「よしだアートプロジェクト新聞」第1号の表(左)と裏(右)

 賛否両論が出たが、最後は新聞作りの基本に沿って記事の大きさを変えることにした。一番大きく扱う記事にはペットボトルで作った全長約2メートルの飛行機を飛ばす「ハッピーエアプレーン」を選んだ。
 新聞はA4判で表裏2ページ。出来上がった第1号を校内などで配ると、ほかのクラスの児童から「わくわくしながら読んだ」「行ってみたい」などの感想が寄せられた。半面、低学年を中心に「漢字がいっぱいあってわかりにくい」といった意見も。めりはりを付けたはずなのに「メーンの記事が(どれか)わからない」とのコメントもあった。
 担任の長崎至宏(よしひろ)教諭(40)は「友達とやりとりしたり、読者の反響を受けたりしたことで、相手の立場に立って考えることを学んだようだ」と言う。
 「500人に来てもらうことを目標に、子どもから大人まで読める新聞を作りたい」と高島美沙さん(10)。分かりやすい新聞って、どんな新聞だろう―。5年3組の児童たちは第2号の発行に向け、再び知恵を絞っている。

実践発表 低学年でも文章を書く手本に◆◆◆
                    千曲市屋代小学校 佐藤 史郎教諭

  低学年の子どもたちに新聞なんていらない? 千曲市屋代小学校の佐藤史郎教諭は、前任の上水内郡中条村中条小学校で1年生の担任の時に感じた疑問を発表のテーマにした。同校で昨年度まで2年間受け持った当時の2年生の授業を紹介。この実践を通して「低学年でも新聞は使える」との考えを持ったと話した。
 2年生が10人と少人数で「意思疎通が容易な分、文章を使った表現が苦手と感じた」と授業の動機を説明。児童に、自分たちが取り上げられた新聞記事の写真だけを見せ、記者になったつもりで記事を書かせた。その後、実際の記事と比べさせ、主語と述語の関係を教えるなどした。
 写真の魅力が興味ややる気を引き出し、表現力が高まった児童もいたと説明。記事が文章を書く手本になったこととともに新聞活用の成果に挙げた。課題として、新聞の記事は児童には難しいと指摘。授業では、記事を必要な部分だけに手直しして示した。

実践発表 全学年で切り抜きや新聞作り◆◆◆
                 千葉県柏市大津ヶ丘第一小 神尾 啓子教諭

 大津ケ丘第一小学校(千葉県柏市)の神尾啓子教諭は、当初は数クラスだけだったNIEの実践を、子どもたちの表現力を育てる目的で全学年に広げて取り組んでいると発表した。自身の体験として、NIEは教科とつなげることで効果が上がり、同校のように特に国語の学習と関連させると取り組みやすいと話した。
 同校は、低学年が「新聞にふれる」、中学年が「新聞に近づく」、高学年が「新聞に親しみ、慣れる」と発達段階に応じた狙いを掲げ、スクラップや新聞作りをしている。
 1年生は、はがき大の用紙に4文字までの短いタイトルや絵、文で表現する「はがきしんぶん」作りをし、表現したいとの意欲に結び付けている。4年生のスクラップが、「自分たちもしてみたい」と3年生に影響を与えたケースも紹介した。
 研究討議では「全学年にわたる継続した取り組みが、子どもに力を付ける上で大切だと思った」との感想があった。


中学校分科会

公開授業 記事・広告で江戸文化研究◆◆◆
                  長野市東部中2年2組 山下 辰也教諭

東部中2年2組
「今と昔をつなぐ新聞」をテーマに行った

 江戸時代の元禄・化政文化と現在とのつながりは―。東部中学校2年2組は、新聞の記事や広告を基に、社会科で江戸の文化を研究。グループごとに調べた内容を画用紙にまとめ、公開授業で発表した。
 「河合曽良を知っている人はいますか? 現在の諏訪市出身の俳人で『奥の細道』で松尾芭蕉に同行したと言われています」。曽良や芭蕉をテーマにした平野裕大君ら3人。曽良の没後300年を記念して諏訪市教委が俳句大会を開く―との記事から「2人の句が今も親しまれる理由」を考えた。発表では2人の経歴や作風を紹介。作品が「誰にも分かりやすいけれど奥深い」ことなどを理由に挙げた。
 学習の足掛かりにした元禄・化政文化に関連する記事や広告は、担任の山下辰也教諭が半年間かけて集めてきた。
 宮下功太郎君ら3人は広告に葛飾北斎の作品が使われていたことに興味を持った。一番の「特ダネ」として「この千年で最も重要な功績を残した世界の人物100人に日本人でただ一人選ばれた」と紹介。発表を聞いた生徒から「北斎が90歳まで長生きした秘訣(ひけつ)は?」との質問があり、「主食(雑穀)を欠かさず食べていたから」と宮下君。仲間は「本当? よく調べたな」と驚いた様子だった。
 「暗記するだけ」という意識にも陥りがちな歴史の授業。研究討議で山下教諭は「歴史的な事柄と現代とのつながりを生徒が意識する上で有効」と新聞を使った狙いを説明した。参加者からは「生活習慣や地域の祭りなど身近な文化や歴史にも触れさせると、相乗効果を得られる」との意見があった。

【授業者から】
文化のつながり 記事から探る

  新聞の記事を資料として、江戸時代の元禄・化政文化と現在とのつながりを調べてきました。学習の成果を盛り込んで作ったポスターを公開授業で発表します。
 例えば、俳句や川柳は新聞の投書欄でよく見られますし、広告のデザインに浮世絵が使われることもあります。江戸の文化に関係する記事などを切り抜き、分類していく中で「当時の精神が毎日の新聞に息づいている、当時の文化が世界につながっている」と気付くことが狙いです。
 江戸時代に限らず、歴史の教科書は、政治経済の流れの後で文化について取り上げています。文化は言ってみれば、おまけみたいな形で扱うわけです。人名と何をしたかを覚えるだけで終わってしまい、文化史に弱い傾向が見られます。
 二つの文化を知り、さらに政治経済の流れと関連付けることで時代背景が分かり、知識が自分のものになると期待しています。

公開授業 福祉施設の介護体験編集 素直な気持ちが文章に◆◆◆
                      長野市東部中学校 片山 洋一教諭

東部中3年5組
高齢者の福祉施設での体験を基にした長野市東部中3年5組の新聞作り

  ※2009年7月30日付の大会特集紙面から、事前の取り組みを紹介。写真は大会前の授業時。
  東部中学校は昨年度から、総合学習で「命の学習」を柱に据え、学年ごとのテーマに沿った取り組みを進めている。その一環で今月9日、全校一斉に行った校外学習「かがやきデイ」。3年5組の37人は11班に分かれて高齢者福祉施設で介護の仕事を体験した。
 体験から学んだことを班ごとに新聞にまとめ、お世話になった施設の職員や利用者に読んでもらうことにした。今回の公開授業で完成させる。
 デイサービス施設を訪問した田中陵太君(15)は最初のうち、隣にいる飯島照子さん(89)とうまく話せなかった。祖父母と同居し、お年寄りと話すのは慣れているはずだが、緊張からか口数が少ない。田中君は蒸し暑い日中、飯島さんを絶えずうちわであおぎ、涼しくした。次第に笑顔が増え「意外と話し好きなんですね」と互いににっこり。
 新聞作りで、田中君は飯島さんたちと東部中の校歌を歌ったり、お手玉やすごろくをしたりと楽しかった思い出を記事にした。「福祉施設の仕事は大変だと思っていたけれど、緊張しなくても大丈夫だと分かった」と話す。
 他班も車いすを押した体験を描いた4こま漫画やリハビリのリポートなど力作ぞろい。「4センチの段差でも車いすに乗っていると結構な衝撃になる」「お年寄りがやけどをしないよう、湯飲みに入れるのは冷ましたお茶を半分までと決められている」。気付いたことが自然と文章になっていった。
 「お年寄りから教わったありがとう」「大切なのは細かな気配り」―。生徒が考えた見出しに担任の片山洋一教諭(45)は「教科学習で見せる姿とは違う。体験を素直な言葉でつづっている」と評価する。

実践発表 地域への取材で疑問解く喜び◆◆◆
                            小布施中 玉井 広観教諭

 小布施中学校(上高井郡小布施町)の玉井広観教諭は、昨年度の1年生の社会科「身近な地域の調査」で、生徒が調べた結果を新聞形式にまとめた実践を発表。「調べて疑問が解ける喜びは、学習意欲の向上につながる。新聞作りで『分かったことを人に伝えたい』という思いをかなえることができる」とした。
 地元、小布施町の特徴から各自がテーマを決め、取材先や取材内容などの調査計画を固めた。ある女子生徒は「小布施町はなぜ栗で有名なのか」との疑問がわき、栽培農家や栗菓子店に取材。町の南を流れる松川の酸性の水が栽培に適し、県内最大の産地であることを記事にまとめた。
 生徒の学習意欲は高まったが「人に読んでもらうという新聞の特性を生かし(クラス内にとどめず)もっと発信すれば良かった」と玉井教諭。会場からも「誰に対して何を発信するか、生徒が自覚することで取り組みも変わってくる」との指摘があった。

実践発表 ニュースの当事者に思い発信◆◆◆
                      名古屋市昭和橋中 伊藤 達也教諭

 新聞から得た『情報』を『知恵』に高めていけたらいい」。名古屋市昭和橋中学校の伊藤達也教諭は、20年余り前から続ける新聞スクラップ作りについて発表。生徒がスクラップで蓄積した情報から自分の考えをまとめ、他の生徒や社会へと思いを発信していく取り組みを紹介した。
 「ジャンルは問わず、週3回くらいが目標。きっちりやろうとすると長続きしない」と伊藤教諭。やりっ放しにせず、自分がどんな分野の記事を選ぶ傾向にあるか分析したり、クラス内でスクラップノートの交換会を開いたりすることで「生徒が自分を客観的に見ることができる」。
 生徒や教師のスクラップから選んだ記事の内容について考え、文中に登場する当事者に手紙を書いて思いを発信する活動も紹介。「新聞を通じて生徒たちの目が学校から地域、世界へ広がる」とした。研究討議で参加者の一人は「自然に実践が続き、効果が出ている」と評価した。

ワークショップ 各紙読み比べ 違い実感 記事に息づく「物語」伝えて◆◆◆
                    大阪市昭和中 植田 恭子教諭

大阪市昭和中・植田恭子教諭によるワークショップ
新聞2紙から同じ事柄を扱った記事を切り抜き、違いを調べる参加者

 「右と左を人に説明する時にどうしますか」。植田さんが「右」「左」と書かれた色紙を見せ、問い掛けた。参加者は戸惑いながらも、配られた紙に「左は心臓がある方向」「北を向いて東が右」などと記入。植田さんは「アナログ時計の文字盤で1〜5の文字が書いてある方向が右」という国語辞典の説明を紹介、「説明の仕方は人それぞれですね」と付け加えた。
 次に「共通点」「相違点」と書いた紙を黒板に張り、「サッカーと野球の共通点と相違点を書いてください」。共通点には「球技」「オリンピック競技」、相違点は「サッカーは手を使えない」「野球は時間の制限無し」などが挙がった。植田さんは「物事には、似ているところも違うところもありますよね」。
 「では、新聞を見てみましょう」と促され、参加者は配布された信濃毎日新聞や全国紙など計4紙の31日付の朝刊に目を通した。1面のトップは、在日米軍の脱走兵についての記事や日本テレビの誤報問題の記事など、さまざまだ。
 さらに、同じ事柄を扱った記事を2紙から切り抜き、ワークシートに張って比較。県内での鳩山由紀夫・民主党代表の演説や世界水泳などの記事を読み比べた。「新聞って違うんですね」とつぶやいた女性教諭に、「その一言で今日のワークショップは成功」と植田さん。「似ているところも違うところもある。各紙それぞれなんです」
 植田さんは、新聞に書かれている事実だけでなく、教員が記事を読んで登場人物の人生などについて感じたことを生徒に伝えるのがNIEだと考える。「子どもは単なる出来事の説明ではなく、記事の中に息づく物語を欲している。感じ取った物語を教え子に伝え、心豊かにしてあげてください」と締めくくった。

【参加者から】
情報との付き合い方 指導に有効


 福井県勝山市勝山北部中の道関直哉教諭(48)は「新聞に違いがあると頭では分かっていたが、初めて実際に比べみて、なるほどと思った」と話した。「生徒だってそれぞれ考えていることは違う。新聞に違いがあるのも納得できたよ」と振り返った。
 飯田市高陵中の白沢英敏教諭(25)はワークショップで、県内上場企業の2009年4〜6月期決算の記事を比較した感想を発表。「この新聞の見出しは『本格回復なお時間』、こちらの新聞は記事の結びに『一部で底打ち感が見えた』との表現がある。景気の展望一つにも、ずいぶん違う印象を受ける」と感心していた。
 松本市女鳥羽中の岩井文子教諭(43)は「新聞の読み比べは、情報との付き合い方を生徒に教えるのに有効と感じた」。読み比べで考え方の幅を知ることで「インターネットなどにあふれる情報を取捨選択する判断力が生徒に備わるのでは」と話した。


高校分科会

公開授業 難解漢字の拡大 解説記事で学ぶ◆◆◆
                  長野工業高国語担当 柳沢 秀樹教諭

長野工業高校2年生
公開授業の様子

 長野工業高校で国語を担当する柳沢秀樹教諭は「新聞記事の生きた語彙(ごい)に触れ、漢字力を養い、読解力を培う」のテーマで公開授業を行った。
 工業化学科2年生の40人はこの日までに「新常用漢字表」(仮称)の試案を取り巻く議論について2時間、学習してきた。公開授業では、漢字をテーマにした本の出版が相次ぎ、常用漢字ではない難解な漢字がよく使われるようになった背景について解説した新聞記事を教材に使った。
 記事は、パソコンや携帯電話など情報機器の普及や、難しい漢字について「格好いい」というイメージが広がっていることなどが背景にあると指摘。生徒たちは内容を読み取るため、配られたプリントの指示に沿って記事を抜き書き。漢字は大衆にとって知識獲得の障害になるとされ、制限されてきたが、個人のアイデンティティーを重んじる傾向の強まりで使用が拡大されてきた経緯があったことをまとめた。
 小宮山大騎君(16)は「漢字はそれぞれイメージを持っていることが分かった。漢字により、文章が彩られる気がする」と感想を述べた。
 授業後の研究討議では、参加者から「漢字学習がドリルなどをこなす作業になってしまっている」などの悩みが出された。「新聞の活用は、漢字力の向上につながっているか」といった質問もあった。
 柳沢教諭は、基礎学習の重要性を踏まえた上で「ドリル学習には限界を感じる」と指摘。「テストに直結する漢字力につながっているかというとまだまだ。さまざまな方法を取りながら、新聞を読みこなせるくらいの力を付けて社会に送り出したい」と話した。

【授業者から】
漢字の与えるイメージ考える

  2年生の現代文の公開授業です。「難しい漢字がなぜ増えているのか」を取り上げた新聞記事を読み、漢字が与えるイメージについて、考えを発表します。今はパソコンのキーボードや携帯電話のボタンを押せば、難しい漢字が画面に出てくる時代です。「格好いい」というイメージで使ってしまうけれど、果たして語彙(ごい)として獲得していけるのだろうか―と問い掛けたいと思います。
 生徒たちの生活の中で漢字は「書く」ものでなく、「親指で打つ」ものになってきていると感じます。デジタルデータ化されることで漢字が記号化され、本来持っていた表意文字としての役割が薄れているのではないでしょうか。
 漢字についての学習では5月にも、「障害」を「障がい」と書き換える近年の動きについて述べた新聞への投書を取り上げました。新聞で最近の身近な話題に触れることで、生徒は自分の意見を持ちやすくなります。

公開授業 スクラップ記事発表「科学」判断する力を養う◆◆◆
                      長野南高「生物U」 佐藤 洋一教諭

長野南高校3年生
スクラップした中から、最も興味関心のある記事を選ぶ長野南高の3年生

  ※2009年7月30日付の大会特集紙面から、事前の取り組みを紹介。写真は大会前のもの。
  長野南高校で選択科目の「生物2」を学ぶ理系の3年生は4月から、医療や食、環境など生物学にかかわる新聞記事のスクラップを続けている。「科学的リテラシー」(科学的な情報を読み解く力)を高め、進学や就職の参考にしようという狙いだ。それぞれ気になる記事を切り抜き、感想などを書き添えている。
 公開授業では、これまでのスクラップから、一人一人が最も興味や関心のある記事について、内容や自分の考えを発表し、意見を交わす。
 担当する佐藤洋一教諭(46)は2006年度から、こうした方法を授業に採り入れている。今回の3年生には昨年度、佐藤教諭の選んだ記事を読み、要約と感想・意見を記す宿題を課した。今年1月、最も印象に残った記事についての発表会も行った。
 科学的リテラシーを重視するのは、これからの社会で欠かせない力と考えるからだ。新型インフルエンザや原子力発電、バイオエネルギーなど、専門知識の有無にかかわらず、将来、向き合わざるを得ない問題は多い。「技術的な裏付けを読み取る能力、扇動されることなく判断する力が必要」と力を込める。
 松嶋花子さん(18)が最も興味関心を覚えたのは、臓器移植法改正案の解説記事。「脳死は一般に人の死」と位置付ける「A案」が今月13日に参院でも可決され、改正法が成立したことに疑問を持ったからだ。「(脳死状態で)生きている人たちが死んだことにされ、治療がおろそかにされてしまうかもしれない」と懸念する。公開授業では、そうした改正法に対する自分の考えを発表するつもりだ。

実践発表 戦争史跡の研究 報道され励み◆◆◆
                      長野俊英高 土屋 光男教頭

 長野俊英高校(長野市)の土屋光男教頭は、長野市の松代大本営地下壕(ごう)を25年にわたり研究している同校郷土研究班の活動について発表した。
 沖縄への修学旅行を契機に地域の戦争史跡に目を向けようと始めた活動。当初は地元に反発もあったが「活動がその都度すぐに新聞で報道されたことにより、現在は地域住民と一緒に取り組みが進められるようになった」と話した。
 また、地道な聞き取り調査を通じて朝鮮半島から強制連行された労働者と地元の人が交流したり、日本人の弱者も犠牲となったりした事実を掘り起こし、地下壕の多面性を新聞の社説が取り上げるまでに至ったと成果を強調した。
 研究討議で、「新聞に載ることで生徒が変わったか」との質問に、土屋教頭は「生徒の顔つきが違う」。同研究班の小林真也君(18)は「平和についての自分の作文が新聞に載ったことで、国の史跡指定に向け、もっと頑張りたい気持ちになった」と話した。

サイド記事加者が松代大本営見学 長野俊英高生ら案内

長野俊英高校生が地下壕案内  長野市で開かれた第14回NIE全国大会長野大会の参加者が31日、大会終了後に同市松代町の松代大本営地下壕(ごう)を見学した=写真。地下壕を研究している長野俊英高校(長野市)の生徒らが案内。全国の小中高校の教員や新聞関係者ら約50人が解説に耳を傾けた。
 同校郷土研究班の6人が、内部の掘削跡や、岩石を運んだトロッコの枕木跡を案内。事故で仲間を亡くした朝鮮人労働者の証言や、強制立ち退きにあった地元住民の様子を伝えた。
 広島県尾道市、栗原中学校の陶山光恵教諭(48)は「生き生きと話す生徒の姿が印象的だった」。栃木県佐野市、氷室小学校の尾花泰彦教諭(40)は「生徒の研究を広く知らせるため報道の役割は重要だと感じた」と話していた。

実践発表 地域社会に参加するきっかけ◆◆◆
                      エクセラン高 竹内 久代教諭

 エクセラン高校(松本市)で理科と園芸を担当する竹内久代教諭は、普通科の環境園芸コースで「環境科学基礎」の授業で行った実践を発表。新聞のスクラップを通じて生徒が環境問題を自分の問題としてとらえるようになっていくステップについて話した。
 生徒たちは宿題として、政治面や経済面、文化面などあらゆる紙面から環境問題についての記事をスクラップ。週に40〜50本の記事を収集してくる生徒もいるという。授業では切り抜きのテーマごとの分類などをしており、竹内教諭は「環境問題が自然科学のみならず社会構造全体にかかわる問題だと気付かせることができた」とした。
 また、新聞が取り上げる地域の環境問題について生徒たちが関心を深め、地元のクリーン作戦や池の水質調査、環境フォーラムなどに参加することにつながったと指摘。「新聞は生徒を地域社会へ送り込むきっかけになった」と話した。


新聞特別分科会
紙面づくりの過程を紹介

新聞特別分科会
「新聞はどのように作っているか〜新聞記者と教師の交流」をテーマに行った新聞特別分科会=長野市のノルテながの

 新聞特別分科会は約90人が参加した。毎日の編集会議の様子や、記事や写真を出す部門と紙面を作る整理部門とのやりとりを新聞社側が披露。教師側からも盛んに質問が出て、新聞への理解を深めた。
 長い写真記者経験がある講師の山口百希(ももき)・朝日新聞東京本社NIE事務局長は、さまざまな写真を見せながら「100行の記事より1枚の写真が多くを語ることもある」と説明。新聞の写真には撮る記者の主張や独自の視点も求められるとした。
 署名記事に関する質問に対して、宮沢秀紀・信濃毎日新聞社整理部長は、署名記事には記事の責任の所在を明らかにし、読者の親近感を高める期待がある一方、「記者個人への攻撃が予想されるケースや、統計など誰が書いても記事に差が少ない場合、署名はない」と答えた。
 記事ができるまでの過程や正確さについての質問も。取材現場にいないデスクが記事の質を変えてしまうのでは―との質問に対し、新聞社の政治部経験者が「情報は必ず玉石混交で記者が見極めるには常識、教養、感性が必要。デスクもそうした経験を積んでいる。別の記者に情報確認させることもある」と説明した。
 NIEの教材作りで、新聞社と学校の役割分担についても質問があった。日本新聞教育文化財団NIEコーディネーター、赤池幹さんは「教材は教師が工夫するもの。新聞社は教育内容には手を出さず、支援すべきだ」と答えた。

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