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長野市で始まった第14回NIE全国大会長野大会(日本新聞教育文化財団主催)は30日午後、県民文化会館(ホクト文化ホール)でパネルディスカッションを行った。教育や新聞の関係者4人をパネリストに、新聞を教材として使う上での課題や活動を広げるための方策を話し合った。
「NIE、身近に引きよせるために」をテーマに討論。長野市吉田小学校の広川芳守教務主任は「新聞記事を教材化するのは難しく、手間もかかる」と指摘。東京都武蔵村山市の持田浩志教育長は「家庭との連携など、広い視点から取り組みを考える必要がある」と話した。
新聞でなければいけないのか―との問いに、信濃毎日新聞社読者センターの畑光一次長は「新聞を使うことで社会の出来事に触れられる」と説明。札幌市宮の森中学校の古畑理絵教諭は「生徒が興味を持ちそうな記事は取っておくなど、できる範囲で臨機応変にやれば楽しくできる」と述べた。
討論に先立ち、諏訪中央病院(茅野市)の鎌田実名誉院長が記念講演。「新聞を読めば、いろいろな生き方や多様な価値観があると気付く。子どもの時にそれを知れば、どんな壁も乗り越えられる」と話した。
※記念講演、パネルディスカッションの詳報は下に記載。
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■記念講演「命は人と人のつながりで守られる」 |
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新聞から生き方感じて
諏訪中央病院名誉院長 鎌田 実氏
子どものころ、家は貧乏だったが、新聞は取っていた。母は心臓病を患い入院することが多く、一人っ子のわたしは、タクシー運転手の父が帰ってくるまで新聞を何度も繰り返し読んだ。多様な価値観を持てたのは、そのおかげ。いろいろな生き方があるということが分かった。
以前、イスラエル兵に銃撃されて脳死状態になったパレスチナ人の12歳の男の子の心臓が、イスラエル人の子どもに移植されたという小さな記事を読んだ。国連の招きでスイスで講演した際、国連にパレスチナ人の両親の身元を探し出してもらった。今は、何とかして(パレスチナの)ガザ地区に入り、両親に話を聞いて絵本にしたいと思っている。そんな情熱を持つようになったきっかけも新聞だ。
新聞にはどう生きるかが詰まっている。それを子どもたちに感じてもらうことがNIEの目指していることかなと思う。そうして育った子どもは、人生で壁にぶつかっても生き抜く。自分たちの小さな地域が大きな世界や宇宙とつながっているという視点も持つようになる。
発生学では、胎児が子宮に居る「十月十日」には、38億年の生命の進化が含まれているとされる。32日目の胎児は魚のような顔をしている。34日目には苦しそうな顔になる。これは陸に上がって苦しみ抜いた爬虫(はちゅう)類の顔。38日目には哺乳(ほにゅう)類、つまり、獣の顔になると大学で学んだ。このようにわたしたちは、生命全体の記憶を背負って生きている。人間は、元をたどれば、人類起源の地であるアフリカの一人の母親の命につながる。なのに人は戦争、いじめ、差別を行う。残念だ。
進化の過程でわれわれは食欲、睡眠欲、性欲を得た。それらは大切だが、暴走すると危うい。それを制御するのが教育、地域のつながり、家庭、文化だ。今はそれらすべてが疲弊している。回復のため、社会の土台となる子育て、教育、医療、福祉を手厚くするべきだ。そうすれば、この国は良くなる。
命というのは不思議で、余命いくばくもない患者でも、希望や目標を持てば、命を永らえる。何かとつながっているという感覚が人の心を温め、体にも良い影響をもたらすのだろう。
新聞をよく読めば、人と人、人と自然、心と体など、さまざまな物がつながっていると実感できる。だからこそ、新聞には批判ばかりでなく、ポジティブな考え方も大きく展開してほしい。人が日々を賢明に生きている姿をたたえるような、心が温かくなる記事をもっと書いてほしい。
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■パネルディスカッション「NIE、身近に引きよせるために」 |
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新聞を生かした魅力ある授業へ |
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大会1日目、「NIE、身近に引きよせるために」をテーマに、長野市の県民文化会館(ホクト文化ホール)で行われたパネルディスカッションは、授業などで新聞の活用を広げるためにどうしたらいいか、教育や新聞の関係者が意見を交わした。信濃教育会NIE研究調査委員長の市川文夫・千曲市更埴西中学校長の基調提案と併せて紹介する。 |
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渋沢 文隆氏 |
持田 浩志氏 |
広川 芳守氏 |
古畑 理絵氏 |
畑 光一氏 |
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【コーディネーター】 | |
長野県NIE推進協議会長 |
教室に記事を持ち込んで |
渋沢 文隆氏 |
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【パネリスト】 |
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東京都武蔵村山市教育長 |
新鮮な情報が届いて有効 |
持田 浩志氏 |
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長野市立吉田小学校教務主任 |
学ぶ意欲があるとき効果 |
広川 芳守氏 |
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札幌市立宮の森中学校教諭 |
多面的なものの見方学ぶ |
古畑 理絵氏 |
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信濃毎日新聞社読者センター次長 |
社会を知って触れる材料 |
畑 光一氏 |
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[渋沢] NIEとのかかわりをそれぞれお聞きしたい。
[持田] 20年前に全国で初めてNIEの授業研究が都内の学校で始まった時、小学校の学級担任として携わった。その後もNIEにかかわり続けてきたが、大きな課題はあまり変わっていない。教育課程への位置付けをどうするか、教材としての可否、子どもたちにどのような力を身に付けさせたいのか―の3つだ。
この20年間に全国で優れた実践が発表され、課題や成果を多くの方と論議できる蓄積ができた。新学習指導要領にも新聞の活用が位置付けられた。そうした中、武蔵村山市では小中一貫校(2010年度開校、本年度プレ開校)の予定があったので、カリキュラムの中にどう新聞教育やNIEを組み入れていくか、教育委員会が検討し、情報リテラシー(批判的に読み解く力)育成として、義務教育9年間の全教科に組み入れた。
[広川] 1年半くらい前にNIE実践校の指定を受けた時、わたしも含め、吉田小で実践したことのある先生はほとんどいなかった。こうした学校が全国的に多いのではないか。NIEを研究する中でどんな苦労があり、何を感じたか、素人の代表として話すことで、取り組みを広げていく方向性が見えてくればいいと思う。
[古畑] 北海道では、NIEアドバイザーによる学習会やセミナー、実践交流会を開いている。本年度の実践校は55校。本年度から大学(4校)も加わった。
勤務する宮の森中では昨年度、国語や社会科、道徳で実践した。国語の公開授業では成人年齢の引き下げについての記事を比較し、多面的なものの見方を考えた。生徒からは「自分の意見が確立できた」「社会に関心を持てた」といった感想があった。中には「いつもは眠いけれど、またこういう授業を受けたい」という生徒もいて、成果が感じられた。
[畑] 県内の小学校に出向き、新聞の作り方を話している。NIEの公開授業で訪ねた学校も含めると、これまで150校ほどになる。
[渋沢] 長野県ではまだNIEが浸透していないと感じる。先生が新聞をしっかり読んで優れた記事を教材として教室に持ち込むという気持ちが必要だ。しかし、日々の忙しさもあり、そもそも新聞を読む時間を確保しにくい状況もあるようだ。
[持田] 教師自身が新聞をあまり読まなかったとしても、子どもたちが新聞記事を見つけて教室に持ってくれば、それでもNIEは成立する。記事を教材に加工して使うことだけをNIEと考えるのは違うと思う。
[広川] 新聞を教材化するのは、小学校では難しさがある。同じ教育効果が得られるなら、教師はなるべく時間がかからない副読本や図書館の本を選ぶ。ほかにも食育や読書など取り組まなければならない活動はたくさんある。NIEが広がらないのは多忙な教育現場にそぐわないからではないか。
[古畑] 資料集は1年生で買って、2年たてば内容が新鮮ではなくなる。最新の正確な情報を子どもたちに共有させたいと思うので、新聞を活用している。
[畑] 企業の新入社員の研修で「10分だけでも新聞を読んでください」と話す。新聞は見出しを読めば概略が分かるように作ってある。10分あれば、すべての見出しを読める。気になるところがあれば、読んでもらえばいい。NIE以外にも先生が取り組まなければならない活動はたくさんあるというが、なぜそれらが求められるのか考えるためにも先生が新聞を読むことは必要だと考える。
[渋沢] NIEとはどういうことか、もう一度整理したい。
[持田] 授業の中で新聞の記事を教材として使うのも一つだが、もう少し広くとらえたい。家庭で親と一緒に新聞を読むとか、年間を通してテーマを持って親や先生と一緒にスクラップするとかすれば、生涯学習の基礎ができる。情報の収集や発信、表現の仕方も学べる。
[畑] 新聞をスクラップさせる授業で、小学3年生が北朝鮮の地下核実験の記事を選んでいるのを見た。小学校で3年生に教える内容に北朝鮮は含まれていない。スクラップをしたことで、その子は北朝鮮という国があることを知った。子どもは社会に関心を持っている。子どもがどんな記事をスクラップするかを通して、その子が何に興味を持っているのか、先生が知るきっかけにもなる。
[広川] 新聞を使った授業では、子どもたちが楽しく生き生きと学ぶことができた。しかし、図書館の本やVTRを使っても同じ効果を得られたと思う。さまざまなメディアがある中で、なぜ新聞でなくてはいけないのか、NIEを広げていくためにも、はっきりさせなくてはいけないと思う。
[持田] 教科書が改訂される間隔からすると、今、子どもたちが使う教科書は7年前の内容。新聞には今、起きていることが書かれている。新聞を使うことによって、社会と主体的にかかわる力を育成できるのではないか。新聞は新鮮な情報が毎日届くので有効だ。
[畑] 長野市内の高校が職業体験を受け入れてほしいと言ってきたので「新聞社に来るより、受験勉強した方がいいのでは」と冗談で言ったら、校長は「大学を卒業しても就職しない若者がいっぱいいて問題になっている。中学、高校時代に職業というものを経験し、社会を知らないといけない」と答えた。生徒を社会に送り出す仕事をしている先生には、社会と触れる材料を授業に取り入れることを考えていただくことも重要だと思う。
[古畑] なぜ、新聞でなくてはいけないのかと考えることこそが第一歩。それは新聞をもっと活用するにはどうすればいいのかという考えに発展していくはずだ。
[広川] 授業でリンゴの葉摘み作業を学んで、子どもたちはもっと知りたくて仕方がなくなった。そこで関連する新聞記事を見せると飛び付く。そういう時こそ、新聞は効果を発揮する。子どもたちにいかに必要感を持たせるような道筋を考えていくかが大事だ。
[渋沢] NIEを身近に引き寄せることができるような提案は。
[持田] (目標の明確化など)教育課程の整備と(家庭との連携など)学習環境の整備だ。新聞側と協力しながら取り組んでいくことが一つの方法ではないか。
[古畑] 自分ができる範囲で取り組み、生徒の興味を引きそうな記事を探す。そう考えれば、面白く感じながら取り組める。NIEのベテランではないので、深刻過ぎたり悲惨過ぎたりする内容の記事は避けている。生徒に意見を言わせることもあるので、どっちに傾いてもいい題材を選ぶようにしている。生徒が興味を持ちそうな記事を見つけたら取っておくなど、臨機応変にやれば、楽しくできるのではないか。
[畑] 先生たちにNIEを役立つものとして考えてもらい、社会を子どもたちの身近に引き寄せる材料として新聞を使ってもらいたい。
[渋沢] 最後に一言ずつ。
[持田] NIEは教育課程に位置付けていかないと長続きしないし、学校として取り組みにくい。教材として使える新聞が学校には十分になく、新聞を購読していない家庭もある。インターネットなどの情報をどう利用するかも含め、これからのNIEで考えていかなければならない。
[広川] 31日の公開授業で扱う裁判員制度は、5月に始まったばかりで(掲載した)教科書や資料集がなく、新聞から学ぶことが大きかった。
[古畑] 生徒にとって世の中は遠い国の出来事のようにしか感じていない。それを身近に真剣に考える時間があることは将来、わたしにも想像できないような教育効果があるのでは―と期待している。
[畑] 戦前の教師も教科書のほかに良い教材として何を選ぶかは考えていた。子どもたちの目を輝かせる授業にするために教材を考えてほしい。新聞社の側も今回出た提言を真剣に考えていきたい。
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【基調提案】
教師・作り手双方協力を
信濃教育会NIE研究調査委員長 市川 文夫氏
1万人余の県内教職員で組織する信濃教育会が昨年度行った調査では、8割近くの先生が授業などで新聞を使った経験があり、小中の全教科、全学年で活用されていた。多くが「社会への関心を高める」効果を認めている。新聞は、子どもと社会をつなぐ窓と言える。
NIEを広める上でどんな課題があるか。
「まず新聞活用ありき」では駄目。新聞を授業に使うのは、学ぶ意欲を高める「具体」が新聞にあるから。子どもが目を輝かせるような「いい授業をしたい」という意欲があれば、教材化する困難も乗り越えようとするはずだ。
教師側は新聞がどうやって作られているかなどの理解を深める必要がある。「読まない」との回答の75%を占めた20、30代にどう読んでもらうかも大きな課題だ。
実践事例発表会などNIEの研修の場は、教師だけでなく、新聞の作り手にとっても大切。だが、新聞社からNIE担当者や取材する人以外で、自主的に研修に来る姿をわたしは見たことがない。もっと参加し、共に学び、取材や新聞作りに生かしてほしい。
教師の意欲と作り手の「活用してほしい」という願いが重なり、両方が努力し、協力してこそNIEは成り立つ。
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【会場から】
新聞読む子 育てて/「参加する」視点必要
○「新聞は生きた教材、身近な学習材と言われている。きのうきょうのことを扱う新鮮さと、現実の問題を扱っている点からだ。読めば社会に目が向く。授業の教材にするだけでなく、新聞を読む子どもを育て、親子で記事を読んで話し合ったりするようにしていくことも大事だ」=東京都・男性
○「2年ほどの実践で、子どもたちが読めて人気を集めたのは(読者の)声の欄。若い世代の声も載っており、スクラップする子どもがたくさんいる。自分も書いてみたいと投稿し、掲載された児童の文章に、別の小学校の児童が応じて文章を寄せてきたこともあった。こんなふうにつながることもある。読む新聞から参加する新聞へという視点も必要ではないか」=広島県・男性
○「NIEが広がらないということに焦点を当てて揺さぶりをかけることも大事だとは思うが、10年、20年前とは違う。(新聞の活用を盛り込むなど)学習指導要領が改定され、NIEは追い風の状態にある。その点をどう生かすかの議論も聞きたかった」=鹿児島県・男性 |
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県内高校生5人 速報新聞を発行
第14回NIE全国大会長野大会」が長野市内で始まった30日、県内の高校生5人が大会を速報する「NIE長野新聞」を作り、全国の小中高校教員ら約千人の参加者に届けた。
新聞を作ったのは、県高校文化連盟新聞部会加盟の松本美須々ケ丘高校、豊科高校の新聞委員会の生徒たち。受け付け開始から終了まで3回発行。会場の県民文化会館(ホクト文化ホール)で記念講演やパネルディスカッションの様子を取材、編集し、信濃毎日新聞社の多目的広報車「なーのちゃん号」で約千部ずつ印刷した。
生徒たちは校内での取材が多いため、大会参加者らへの取材は緊張気味。講演の取材もほとんどが初めてで、「聞き直せないから大変」。締め切りまでの時間が短く、信濃毎日新聞記者の助言を受けながら、原稿を執筆したり見出しを付けたりした。
豊科高3年で副委員長の生駒美冴さんは「学校新聞とは違い忙しかったが、『あと10分で仕上げて』と言われるとやる気が出た。新聞配りでも『ください』と手を伸ばしてくれる人もいて、うれしかった」と話していた。
5人は、大会最終日の31日も長野市内3会場の公開授業などを取材、速報新聞を2回発行した。
【写真】速報新聞を大会参加者に配る豊科高校の新聞委員
連載「環境異変」 会場で写真展示
第14回NIE全国大会長野大会」が開かれた長野市の県民文化会館には30日、信濃毎日新聞社をはじめ全国の45新聞社と共同通信社による連載「環境異変」で掲載した写真のパネルや、県こども新聞コンクールの作品など約50点が展示された=写真。
「環境異変」は国内外で深刻化する地球環境の変化を各社がルポ。国内各地で、名産とされる果実の生産が気候変化の影響を受けている様子などのパネルが並んだ。
小学生対象のこども新聞コンクールの展示作品は、自宅で育てているミニトマトの話題、自分が暮らす街のヒートアイランド現象などを題材にした昨年度の優秀作11点。飯田市松尾小学校の嶋岡あゆみ教諭(43)は「視覚に訴える工夫が新聞作りの参考になる」と写真に収めていた。
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