五里ヶ峰の北東へ尾根続きの山。南から大峰山脈が北上してくる最後の大きな山。千曲市、上田市真田町、埴科郡坂城町と境を接していて標高の割にはボリュームのある山である。
この山を有名にしたのは安藤(歌川)広重が江戸時代後期に描いた浮世絵『信濃 更科田毎月 鏡台山』だろう。それがなぜか冠着山の田毎の月ばかりが有名になってしまい、正対する冠着山と相即不離のはずなのに、月を昇らせるこの山はすっかり忘れ去られてしまった。ときにはこちらにも目を向けてほしいと願っているかもしれない。
先にボリュームと記したが、じっさいJR篠ノ井線の姨捨駅、または長野自動車道姨捨SA付近から見ると、やや右前衛に五里ヶ峰をしたがえ、ゆったりとした円頂を2つ並べて大きく、先の3町市の最奥の山であるだけに奥深さと大きさに納得するだろう。
信濃毎日新聞社発行の『信州百山』にも『信州百名山』(桐原書店刊)にもこの山はない。本シリーズでようやく陽の目を見た山ともいえる。
坂城町北東の和平集落へ市街地から上っていく。和平公園の前を通りすぎ、高原野菜畑を左折し路面がV字やW字のように荒れた農道を進む。平坦になって道もよくなり右へ大きくカーブしていくと真田町境の峠となり入山口。駐車は10台ほどか。入山は左の両町との境の尾根にとる。やや急登のはじめでやがて支峰黒柏木山に着く。一直線の50メートルほどのロープがある下り(これは遠くからもそれと分かる)だが危険性はない。下りきって小さな突起を5回ほど上下する。落葉期以外は展望が期待できない尾根だが、ときどき樹間から望むことはできる。右の真田町側がややひらけたようになり、ウメモドキの群落の下の道をぬけるとすぐに頂上。入山口から約1時間半強。
ほかに千曲市森地区から沢山開拓地を経てくる沢山コースの約1時間半強がある。なお、上田市真田町からも和平と結ぶ林道が峠まで上ってきているが、路面状況を確認したほうがよい。
姨捨方面からもそれと分かるが、頂上の樹林帯はU字型に伐採されていて、西から北への展望はすこぶるよい。正面にまったく冠に見えず尖った冠着山。そのうしろは北アルプス北部が北端まで手にとるようだ。眼下は更級や埴科の集落、川、田畑と広がっている。
冠着山、五里ヶ峰と同じ。