松本平の東端に位置し、松本市、岡谷市、塩尻市と境を接している。平の西端にはおよそ500メートルほど高く同じような山容の鉢盛山がある。両山の共通点は鉢盛山の項で紹介しているのでそれに譲る。
この山は正確には前鉢伏山と本(奥)鉢伏山によって構成される。北西にある山を“前鉢伏”と命名したのは松本市から望んでのことであろう。しかし、その前鉢伏が邪魔となって市街地などからはこの山を望むことができない。
信州百名山に選んだ清水栄一は、「鉢伏山はかつての美ヶ原を凌ぐ美しさと、静けさでいつまでも私をひきつけた」とたたえている。それは現在の鉢伏山荘までの車道が通じる以前のことで、時季にもよるが、いまは車道を使って訪れるハイカーや観光客が多く、山頂付近に限って静かではない。
しかし、清水の指摘どおり山の美しさは変化せずに残されている。高山植物の宝庫といっても過言ではないほどだ。それは山の上部と最上部が高原ないし草原状の亜高山帯であるのと、グリーンパトロール犬のいる鉢伏山荘など、心ある人たちの保護によるものであることを忘れてはならない。
ここもまた鉢盛山と同じく雨乞いの山で、矮(わい)性化したカラマツとともに、鉢伏権現のほか石柱、石碑、歌碑などが山頂に仲良くならんでいる。
南の高ボッチ山(1665メートル)からの車道では登山にならないので、正反対の北側扉温泉口からのコースを紹介する。
扉温泉明神館の下に入山口があり、薄川へ流れこむわさび沢をつめていく。つめるといっても沢登りではなく、右岸沿いの道が続いたあと左岸へ移って、道は左岸の上部へかけ登っていく。コケむした清流を左下にして、ヒノキの林床にはシダも多く静かな山を楽しめる。やがて廃屋となった旧営林署小屋となり、直前の小沢を渡ってカラマツ林の中をジグザグに進む。カラマツ林が終わると右へ横断気味となり高原状の台地へおどりでる。すぐに鉢伏山荘と前鉢伏山への三又路となり、左へ広い道を約20分で頂上。入山口からの標高差約900メートルで約3時間。
ほかに北の宮入峠から前鉢伏山を経てくるコースと、東の二ツ山から縦走するコースが一般的である。
大展望の北隣りの美ヶ原と同じく、まさにほとんど信州の真中で見えない山を捜すのが難しいほどだ。おまけに鉄製2階建てで円型の展望台まであり飽きることはない。ちなみに信州の山以外では富士山、南ア白根三山、鳳凰三山、北に妙高火山群などである。なお、山を朱の斑点やじゅうたんのように彩る6月のレンゲツツジは見事である。ほかに高山植物を順不同で列記しておく。ニッコウキスゲ、ハクサンフウロ、マツムシソウ、ツリガネニンジン、コウリンカ、テガタチドリ、コオニユリ、シオガマギク、ヤナギラン、コケモモ、イワカガミ、クリンソウ、ガンコウラン、シラタマノキなど。
入山口至近の扉温泉は湯元群鷹館と明神館。薄川やや下流に日帰り専用の桧の湯。西山ろくには崖ノ湯温泉郷がある。