「はっちゃくやま」と言う。下伊那郡阿南町西部に県指定重要無形文化財の「念仏踊り」で知られる和合地区がある。かつては、その和合から同町北部の富草地区へ行くのに、和合の北にある八尺山を越えなければならなかった。両地区は、八尺山北西の峠で結ばれていた。
和合から峠への道の入口と、その上部の尾根上に馬頭観世音がある。さらに上部には文化年間建立の念仏百万供養塔と、大きな露岩上部の岩棚に祀られた翁像、そして峠には祠とあって、峠越えの人たちや物資を運んだ馬たちの安全祈願であることがうかがえる。信州では、標高からして里山の部類に入り、なんの変哲もない八尺山だが、そんな昔の歴史を秘めてひっそりと車社会を見おろしているようだ。峠からは北に、飯田市の夜景が美しいという。
同町南部の国道151号線沿いに、国指定の「雪祭り」が行われる新野地区がある。南から新野を越えてくると、天竜川へ流れこむ和知野川にぶつかる。そこへは西から売木川と和合川が合流する。売木川を渡り、さらに和合川を渡って左岸の左手、県道深沢阿南線へ入る。
上和合から右(北)の林道大沢線へ入り、大きく左へカーブする正面の尾根に入山口がある。車ならそこへ駐車できる。入口からすぐに左右に分かれるので、左のジグザクの道へ。馬頭観世音などを過ぎて小沢を渡り、さらに進むと傾斜が落ちて右に古い石垣跡がある。そのわずか先が祠のある峠。石垣跡から右(東)の小尾根を忠実に進み、3つ目の小ピークでTの字。右へ少し下って登り切ると頂上。入山口から約2時間30分。
特筆すべきものはない。しかし、絶対に他の登山者と会うことのない秘峰めぐりを楽しみたい人にはうってつけ。
八尺山のほぼ真東に天竜川へそそぐ門原川があり、その中流域右岸高台の浅野温泉。