詩人尾崎喜八は昭和9年1月3日、南佐久郡川上村の御所平で一泊し、翌日、この山の東にある信州峠を越えて山梨県増富温泉へと詩情あふれる旅をしている。
およそ500ほどある峠の王国信州の中で唯一「信州」と名のつく信州峠は、JR小海線が開通する以前、信州と甲州を結ぶ重要な交易路であった。その信州峠から西へのびる県境上の山で、山梨百名山のひとつにもかぞえられている。
標高も18と18を甲信仲良く足したようである。北の信州側と南の甲州側の山腹は、平均斜度45度の急崖をもつまったく対称なそれで、等しい力をもつ南北それぞれの神が、地表をぎゅうっと押しあって盛りあがった山とも思える。
川上村南端部にあるが、いきおい同じ南端部信州峠から東に位置する小川山や金峰山(きんぷさん)へ目が走り、わざわざこの山を訪ねるという人はそう多くない。有名山岳の脇役をつとめていながら、登り易さや展望の良さで玄人筋に人気の山といってよいだろう。
信州峠から西へ、シラカバなどの広葉樹林ののちカラマツ林となって尾根道が続いている。上部になるほど樹木の木は低くなり、岩混りの小ピークをいくつかこえる。東西に長い山頂部には芝地のところもあって明るい。峠が標高1464メートルだから約1時間強の行程。ほかに南山ろくにある黒森鉱泉からの道もあるが、一般的ではないので詳細は鉱泉へ聞くのがよい。
県境の位置、東西南北近くには高い山がないことから頂上は展望絶佳、一望千里といってもよい。瑞牆山(みずがきやま)、小川山、金峰山などは手にとるようだ。主尾根にでるとアズマギク、キジムシロ、トリカブト、スズラン、ツバメオモト、そしてマイズルソウは道を覆うように頂上まで続く。
南山ろく山梨県北杜市須玉町黒森地区の横尾山に至近の一軒宿黒森鉱泉。