一般的な入山口がある山ろくの村の名前は「はくばむら」で、JR大糸線の駅名も「はくば」だが、本来の山名は「しろうま」である。
それは例年五月上旬ごろに、山腹に現れる雪形が代掻き馬の形をしていることに由来するといわれる。つまり、代掻き馬が「代馬」になり、それが「しろうま」に転化したという説である。ただし、雪形といっても雪解けによって現れる地肌の模様のことであり、したがって実際には白馬ではなく黒い馬である。
北アルプスの北端部を代表する高山で、長野県、富山県、新潟県の境をなしているが、南から眺めると右に傾いているように見える。それは非対称山稜と呼ばれ、東面の長野県側は急崖となり、西面の富山側は緩傾斜帯だからであるが、むろんそれは糸魚川静岡構造線という大断層の生い立ちによる。
その急崖の谷間に、膨大な積雪によって形成される大雪渓が夏には出現し、富山県の剣岳と、ここより南部にある北ア・針ノ木岳とともに日本の三大雪渓の一つに数えられている。白馬の大雪渓は、夏には圧倒的な数の登山者を迎えて、ときには蟻の行列のようにさえ見える。なお、積雪期ともなれば一週間風雪が続くこともまれではなく、白馬岳一帯は世界最悪気象地域の一つにあげられている。
長野県北安曇郡白馬村から松川の上流北股入の渓谷沿いに進み、入山口の猿倉へ。砂防工事専用道路を行き、大雪渓末端部の白馬尻へ(1時間)。大雪渓をつめて葱平(ねぶかっぴら)、小雪渓、お花畑(2時間)となり、村営頂上宿舎を過ぎると主稜線の県境尾根(1時間)。広くなだらかな尾根の先に、日本最大の山小屋、白馬山荘があり、通り抜けてわずかで頂上(40分)。なお、同小谷村栂池高原から新潟県境を登るコースと、南の白馬鑓ヶ岳から杓子岳経由の縦走路コースもある。
まず頂上からの雄大な眺め。この一帯ではひときわ高いゆえに遮るものがなく、日本海や能登半島が北に、南にははるか富士山が望める。行程のなかにある葱平とは、かつてのシロウマアサツキの大群生地のことで、北アルプス登山黎明期には活力源として食用にされたという。シロウマ名を冠した高山植物は、シロウマオウギ、シロウマタンポポ、シロウマアカバナなど十六種あるといわれ、高山植物基準標本産地に指定されるなど日本有数の高山植物の宝庫である。
大雪渓の両隅の雪解けによって、初夏を代表するシラネアオイやサンカヨウなどが咲き乱れ、盛夏の主稜線には、花の代表ウルップソウやタカネトリカブトが青紫色の花弁をゆらして、登山者を別世界へ誘う。大展望と大雪渓、それを彩る可憐な高山植物がこの山の魅力となっている。
なお、お花畑と村営宿舎の間で、氷河の擦痕が刻まれた珍しい岩盤が見られる。
入下山で通る松川沿いの二股に八方温泉。村内に第一郷の湯、第二郷の湯、みみずくの湯などがある。猿倉から、左の白馬鑓ヶ岳方面へ登れば、中腹に日本で二番目に高い白馬鑓温泉(2100メートル)。明治時代後期から「雲上の神泉」といわれてきた硫黄泉である。