信州山小屋ネット~朝日に染まる白銀の山々(大町市の山岳博物館から)

西駒山荘 荷下げ
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西駒山荘
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霧ケ峰
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涸沢
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あんぜん登山の最前線~雪山からの生還~(5)
2014/03/15 11:13
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<突然の雪崩に遭遇 「山は怖い」肝に銘じる>

 「冗談だろ。夢であってくれ」。2007年12月29日、冬季の北アルプスで最も厳しいとされる剣岳(2999メートル)の近く。佐久市の農業男性(39)が雪崩に巻き込まれたのは、谷状の地形を登っていた時だった。

 大町市から入山し、後立山連峰を越えて黒部峡谷を渡って富山県側に抜ける「黒部横断」の8日目。世界の優れた登山家に贈られる「ピオレドール(黄金のピッケル)賞」を受賞した横山勝丘(かつたか)さん(34)=山梨県北杜市=が先頭を歩き、男性が2番目、同じくピオレドール賞受賞者の佐藤裕介さん(34)=甲府市=が最後尾だった。

 斜面には50センチほどの新雪が積もっていた。傾斜は35度で、登るにつれて雪崩の危険を感じた。ロープで体を確保すれば雪崩でも流されにくく、救助もしやすい。「ロープを出した方がいいかな」。そう思った瞬間、鈍い音とともに雪面が動き始めた。男性と横山さんは何の抵抗もできず、池ノ谷の左俣に流されていった。

     ◇

 雪崩に巻き込まれたら泳ぐようにもがき、できるだけ雪の上に出る努力をすべきだとされる。だが、男性は身動きできず、「体が回転し、どっちが上か下か分からない状態だった」という。流れが止まった途端、雪が全身を押しつぶすように圧迫し始めた。呼吸はできず、「死ぬのか」と諦めかけた。

 第2波でさらに流され、次に止まった時、偶然に顔と左手が雪の上に出た。雪上に浮き出た横山さんと雪崩を避けた佐藤さんに掘り出され、何とか肋骨(ろっこつ)を折る大けがで済んだ。標高差600メートル、距離にして1・2キロも流され、背中のザック以外の装備は全て失っていた。

 3人は前日泊まった雪洞へ登り続けた。その後の4日間は猛吹雪に閉じ込められ、富山県側に下山できたのは08年1月4日だった。

     ◇

 男性は「山は怖いものだ」という気持ちを、登山のたびに胸に刻み直していると話す。「その気持ちがあれば、厳しい山行でも生き抜くことができる」。怖いからこそ、山行前には最も安全なルートを選べるよう、さまざまな場面を想定して準備する。山での行動もより慎重になるという。

 男性は今、雪山ではたとえ1人でも仲間が不安を抱いたら、煩わしく、時間がかかってもロープで確保するようにしている。「次に生かすために忘れてはならない」。07年暮れに突然巻き込まれ、幸運にも生還することができた雪崩遭難を雪山での最大のリスクと考えている。

 間もなく春に向かう県内の山岳地帯は、登山やバックカントリースキーを目的とする人が次々と入山する。充実感や楽しい思い出を持ち帰るため、遭難に学ぶことは多い。

【積雪の状況や地形把握を NPO法人日本雪崩ネットワーク理事長・出川あずささん(横浜市)】

 冬山と違い、一般に春は降雪直後の雪の不安定性が数日で解消することが多い。寒気を伴った低気圧の通過で、新雪が降ったという一報を聞き、シーズン最後のパウダー(粉雪)斜面へ飛び込む前に、果たしてどの程度、積雪が安定しているのか、状況を把握するように努めてほしい。判断のための十分な材料を得ることができない、あるいは経験が乏しいのであれば、安全に山スキーを楽しむための鍵は地形にある。雪崩の危険の小さい尾根や樹林帯、積雪を支える緩やかな斜面を選ぶことだ。捜索するビーコンなど、万が一、雪崩に遭った時の安全装備も忘れずに入山してほしい。

(おわり)



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