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西駒山荘
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あんぜん登山の最前線~雪山からの生還~(2)
2014/03/12 11:40
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<雪面を滑落 歩行技術「覚えたつもり」>

 垂直な壁にぶら下がっているような怖さが襲ってきた。2013年4月14日、八ケ岳の主峰・赤岳(2899メートル)の山頂直下。神奈川県の団体職員男性(29)は、雪の急斜面で足がすくんでいた。後ろ向きで、斜面にへばりつくようにして一歩ずつ足を下ろした。

 滑り落ちる直前、雪面にそっと降ろした左足の感覚はそれまでと違った。硬く締まっていた雪が急に軟らかくなり、靴の裏に装着したアイゼンが利かなくなった。雪面にしがみつくような姿勢で滑落し、ロープで体につないでいなかったピッケルは先に落ちていった。

 滑っていた時間は7、8秒。膝とアイゼンで何とか止まったが、その先も谷底まで数百メートルの急斜面が続いていた。男性は「止まったのは運が良かったとしか言いようがない」と、当時を思い返した。

     ◇

 男性は10年に本格的な登山を始めた。神奈川県・丹沢で雪山を経験し、昨年1月、雑誌で「雪山コースの定番」などと紹介される八ケ岳へ。比較的なだらかな横岳(2829メートル)に登った。

 雪山でピッケルとアイゼンが必須であることは知っており、登山用具店で購入した。だが、「使い方は山好きの先輩に聞いたり、前を歩いている人を見たりして覚えた」。自治体や民間、山岳会などの雪山講習で必ず行う滑落時の停止姿勢の訓練などは受けなかった。「覚えたつもり」が遭難につながった。

 滑落した日も単独で入山し、南佐久郡南牧村と山梨県境の「県界尾根」から赤岳山頂を目指した。日帰りのつもりで登山計画書は提出せず、山岳保険にも加入していなかった。

     ◇

 「下るのはかなりきついんじゃないか」。頂上に近づくにつれて傾斜がきつくなり、不安も感じたが、尾根の雪は締まっていて歩きやすく、前にはほかの登山者もいた。自分に「大丈夫」と言い聞かせ、歩き続けた。

 登頂は午前11時ごろ。ただ、男性は「達成感と同じぐらい、下りへの不安感があった」と振り返る。天候はいいが風が強く、下りのことばかりが気になって約15分ほどで山頂を後にしたという。

 滑落したのはそれから間もなくだった。膝を擦りむき、恐怖で動けなくなって携帯電話で救助を要請した。県警ヘリコプターによって無事平地に戻ることができた。

 「急な登りで引き返すべきだった。同じことを繰り返してはいけない」。登山はあきらめずに、少しずつ学んでいこうと考えている。

【体系的に訓練して臨んで 諏訪地区山岳遭難防止対策協会の山岳救助隊長・高橋政男さん(諏訪郡下諏訪町)】

 雪山の定番コースとして登山者が大勢訪れる八ケ岳は、4月ごろに積雪が増える特徴があり、冬以上に注意が必要だ。谷筋には6月まで雪が残り、入山者が少ない佐久側の県界尾根では毎年のように滑落による死亡事故が起きている。こうした時季でも、人気がある諏訪側を中心に夏山装備で訪れる人がいるのが現状だ。県山岳総合センター(大町市)の講師を務めて課題だと思うのは、雪上歩行だ。ちょっとした斜面で腰が引ける受講生が多く、アイゼンを雪面に食い込ませることができなくなる。雪山を歩くのには特別な技術が必要だということを認識し、体系的に訓練をして登山に臨んでほしい。



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