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西駒山荘 荷下げ
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霧ケ峰
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涸沢
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あんぜん登山の最前線~密着・遭難救助~(3)
2013/08/24 10:39
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<統計に残らない山の事故 自力下山か、救助か>

 救助隊員たちの活動拠点となる標高約2300メートルの北アルプス・涸沢の県涸沢山岳総合相談所。今月1日午前11時すぎ、血がにじんだタオルを額に巻いた男性(68)が、うなだれて相談所の前を通り過ぎようとしていた。

 「どうしたんですか」。相談所の軒先にいた北ア南部地区夏山常駐パトロール隊の新人隊員土田孝浩さん(23)が、男性に駆け寄った。

 男性は、北穂高岳(3106メートル)の下りで滑って転び、「頭を石にぶつけた」という。土田さんは、近くの東大涸沢診療所に男性を連れて行った。県警山岳遭難救助隊松本班班長の岸本俊朗さん(35)も付き添い、「自力で下山できますか」と尋ねると、「大丈夫」とうなずいた。

 岸本さんは、夏山常駐隊長の吉田英樹さん(58)に「自力下山」の方針を伝えた。吉田さんは思案し、条件を付けた。途中の横尾までは緊急車両などが入れるため、「男性が車を出してくれと言い出すかもしれない。急な要請は山小屋や関係機関に迷惑を掛ける。上高地まできちんと歩いて下ることを確認してください」。岸本さんに念押しした。

 午後0時24分、診察の結果、尻にもけががあることが分かった。吉田さんは「1人付けて下山させよう」と岸本さんに助言。土田さんが横尾まで付き添うことになった。

 岸本さんは松本署に「遭難ではないが、途中でどうなるか分からない。できれば上高地の(松本署上高地)臨時派出所から横尾まで車で来てもらいたい」と連絡。横尾山荘にも男性の状況を伝えた。

 結局、横尾まで下った男性は、尻の出血がひどくなり、たまたま横尾山荘の火災報知機の点検に来ていた消防車両で上高地へ。そこから救急車で搬送された。

 「遭難」として記録されるのは、山岳地帯で県警への救助要請があった場合だけだ。「遭難未遂」は連日起きているが、統計には残らない。

   ◇   ◇    

 同日午後3時10分、北穂高小屋から相談所に無線連絡が入った。北穂高岳のテント場付近を通過中に転んでこめかみを切り、腰を痛めた男性(71)が救助を求めている―。

 吉田さんは直接、男性の同行者と携帯電話で話した。けがの状況や現在の様子を聞くと、男性は転倒で動揺しているが、歩けそうだった。

 救助と判断すれば、県警か県のヘリコプターを要請することになる。相談を受けた岸本さんが再び電話をかけ、「そこから北穂高小屋まであとわずか。歩けませんか」と励ますように説得。男性は歩いて北穂高小屋にたどり着き、翌日自力で下山した。

   ◇   ◇   

 救助要請を受けた隊員たちは、遭難者の状況を把握し、自力下山か救助かの判断を迫られる。軽いけがや体調不良でも、本人の気力次第で「遭難」となるケースもある。

 県警山岳遭難救助隊によると、2012年の山岳遭難事故で県警ヘリコプターの出動件数は166件、1件の遭難に複数回出動した場合を含む出動回数は199回あった。10年前の02年は出動件数79件、出動回数は90回だった。

 自然への関心や健康志向の高まりから、北アルプスを目指す登山者は増えている。吉田さんは「昔も今も山の難しさは変わらないのに、体力や技術、知識が足りない登山者も登ってくる。それが槍・穂高連峰の現状」。この日の2件が示す危うさを指摘した。

写真説明:自力で下山させるか、救助するか―。対応を相談する吉田さん(左)と岸本さん=1日、北アルプス・涸沢



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