信州山小屋ネット~朝日に染まる白銀の山々(大町市の山岳博物館から)

西駒山荘 荷下げ
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西駒山荘
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霧ケ峰
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涸沢
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あんぜん登山の最前線~密着・遭難救助~(1)
2013/08/22 10:26
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 北アルプス・涸沢を拠点として、槍・穂高連峰で登山者の安全を守る民間の夏山常駐パトロール隊の活動は今年、50周年を迎えた。県警山岳遭難救助隊と協力し、危険と隣り合わせの現場で登山者を助け、事故の防止に大きな役割を果たしている。今夏の常駐は7月11日から8月19日までの40日間。最前線で奮闘する常駐隊員に密着取材し、救助現場の実態や、活動を取り巻く課題に迫った。

<隊員の長い1日(上) 3件同時、表情引き締め>

 「韓国人が前穂高岳の紀美子平(きみこだいら)で滑落。北穂高岳近くの大キレットでは歩行困難の男性」。2日午前10時すぎ、標高約2300メートルの北アルプス・涸沢(松本市安曇)の県涸沢山岳総合相談所にある夏山常駐パトロール隊の携帯電話に、一度に2件の遭難事故の連絡が、松本署から入った。

 隊長の吉田英樹さん(58)は即座に、パトロール中の隊員の位置を掲示板で確認。同じ相談所を拠点とする県警山岳遭難救助隊の隊員に「ヘリコプターが飛べるか聞いてください」と依頼した。遭難現場に近い北穂高小屋には「無線の中継を願います」と連絡。次々と救助の段取りを進めた。

 その時、無線がもう1件の遭難を知らせた。奥穂高岳と西穂高岳の間の天狗(てんぐ)ノ頭(かしら)付近で、岳沢(だけさわ)側に滑落―。常駐隊歴23年になる吉田さんだが、「3件同時は珍しい」と表情を引き締めた。隊員たちの長い1日が始まった。

   ◇   ◇

 韓国人の救助要請は、前穂高岳北尾根の急峻(きゅうしゅん)な岩壁を登っていた2人の県警山岳遭難救助隊員に届いた。訓練を兼ねてパトロールしていた同隊松本班長の岸本俊朗さん(35)と隊員の前田茂喜さん(29)だ。

 北尾根は前田さんにとって初めてのルートだ。救助用具がずっしりと肩に食い込む。無線対応も任され、自分の安全を確保しながら、現在地や天候を涸沢に伝えた。全身に汗がにじみ、「いっぱいいっぱいだな」と感じていた。

 「焦ってもいいことないから」。厳しいことで知られる岸本さんが、穏やかな口調で声を掛けた。二重遭難は絶対に起こしてはならない―。前田さんは繰り返し聞かされてきた言葉を思い出し、汗を拭って心を落ち着かせた。

   ◇   ◇

 正午、2人は遭難者を発見した。50代の韓国人男性が、約50メートル滑落していた。霧雨の中、岸本さんがロープで下降し、横たわる男性に近づいた。意識はあったが、「大丈夫?」との呼び掛けに困惑した表情を見せた。日本語も英語も通じない。

 身ぶり手ぶりで意思疎通を図り、足先から頭までゆっくり触ってけがの場所を探った。痛みで顔をゆがめた部分を丹念に調べ、左足首を副木で固定。頭部の出血にはガーゼを当て、三角巾で圧迫した。ヘリ到着が遅れれば、霧雨や風が体温を奪う可能性がある。防寒着を着せ、シートで体を覆い、待った。

 天候が回復した午後1時半、県警ヘリが男性を収容した。岸本さんは前田さんに言った。「天狗ノ頭にヘリで向かう可能性もある。急ぐぞ」。2人は休む間もなく、ヘリポートがある岳沢小屋を目指し、駆け足で下っていった。

【夏山常駐パトロール隊 北ア北部と南部に設置】

 北アルプスの夏山常駐パトロール隊は、県、県教委、県警などでつくる県山岳遭難防止対策協会(県遭対協、会長・阿部守一知事)が、遭難事故を防ぐため、夏山シーズン(7〜8月)に北アの北部、南部の両地区に設置する。

 委嘱された隊員がパトロールや救助活動に取り組む。隊員は一般公募した自営業者や山岳ガイドらで構成する。県遭対協が1人1日1万〜1万6千円の手当などを負担する。隊として救助した遭難者には救助費用を請求する。

 1963(昭和38)年に南部の槍・穂高連峰で夏山常駐の活動が始まり、65年に後立山連峰などの北部でもスタートした。名称は昨年から夏山常駐パトロール隊になったが、略称として今も常駐隊と呼ばれることが多い。

 南部地区常駐隊は、2001年に建て替えられた涸沢の県涸沢山岳総合相談所を、県警山岳遭難救助隊と共同で拠点としている。両隊は協力し合い、寝食を共にして登山者の安全を守っている。

 今夏の南部地区常駐隊は14人(女性1人)で、平均年齢38歳。

写真説明:前穂高岳北尾根へパトロールに向かう岸本さん(左)と前田さん=2日午前7時前、涸沢



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