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「山の手帖2018」
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松本 山岳フォーラム
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浅間山噴火「系統樹」
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あんぜん登山の最前線~身近な遭難から学ぶ~(4)
2013/08/09 10:09
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<尾根筋で雷 待機せず登り続け直撃>

 天候が悪い日には耳鳴りが聞こえ、あの日の出来事が脳裏に浮かぶ。昨年8月18日、北アルプス・槍ケ岳(3180メートル)に通じる東鎌尾根(ひがしかまおね)を縦走中、千葉県柏市の市山岳協会理事の越中(こしなか)美津雄さん(62)は、雷の直撃を受けた。

 登山用具に残る落雷の痕跡が、衝撃の大きさを物語る。化学繊維の衣類は、溶けたり焦げたりし、分厚い登山靴の先には穴が開いている。「生き残ったのは強運としか言いようがない」

 市山岳協会の男女9人で、燕(つばくろ)岳から槍ケ岳への「表銀座コース」を縦走した。20代から登山に親しんできた越中さんは、サブリーダーとして先頭を歩いた。

 山行2日目の18日は、午前4時半に山小屋「大天荘(だいてんそう)」を出発した。山小屋関係者が「午後から雷雨になる」と話す声が聞こえたが、周囲は晴れ。越中さんは「雷雨になるのは、前日と同じ午後3時ごろだろう」と考えた。

 はしごが連続する難所を通過し、昼食を食べ始めた午前11時20分には雨が降り始め、ガスも出てきた。昼食を早めに終えて出発し、しばらく歩くと、いつの間にか雷鳴に包まれていた。切り立った尾根筋のため、避難に適当な場所がないと判断。一番近い山小屋「ヒュッテ大槍」を目指した。以前テント近くの地面に雷が落ちた経験があり、「まず人間には落ちない」と信じていた。

 登り続け、急に開けた場所に出た。時刻を確認すると午後0時10分。「ヒュッテまであと数分だ」。そう思った瞬間、記憶が途切れた。

 約10分後、気付くと雨の中で倒れていた。下半身が動かず、左耳が聞こえない。首、背中、腰に痛みが走り、息苦しかった。雷の直撃を受けて倒れたと、仲間から知らされた。雷鳴が去り、ヒュッテ大槍から駆けつけた救援者に背負われ小屋に運ばれ、県警ヘリコプターで救助された。

 脳内出血、左耳の鼓膜の破れ、背中や足、尻にやけどなどを負った。傷痕から、電流は頭部から入り、背中からザックを通じていったん外に抜けた。再び尻から入り、登山靴を突き抜けたとみられる。越中さんは「(電流がいったん外に出たことで)体内の電流の割合が減り、辛うじて死を免れた」と振り返る。

 「避難に適切な場所がなかったとはいえ、雷に近づく形になったのは危険だった。低い場所でやり過ごすのがベターな判断だった」と省みる。事故を教訓に山岳気象を学び始めた。「平地でも雲の流れを見るようになりました」

【少しでも低い所へ避難して 気象予報士・猪熊隆之さん(茅野市)】

 北アルプスなど高山で発生する雷は「熱界雷(ねつかいらい)」といい、時間帯を選ばず発生する危険な雷です。天気図である程度予想でき、前線を伴わない小さな低気圧の周辺、日本海から南下する前線の南側が危ない。自著「山岳気象大全」(山と渓谷社)なども参考にしてください。

 普段より空気がじとっとまとわりつく感覚なら、空気が湿っており、午後から雷の原因の積乱雲が発達しやすく、注意が必要です。積乱雲が自分に向かってくる風向きの時は、直ちに避難しましょう。遭遇したら、とがった物から離れ少しでも低い所に逃げましょう。逃げ遅れたらくぼ地を探し、電流が流れにくくなるよう両足をそろえ、できる限り低い姿勢をとりましょう。

 自然には謙虚になって、天気図や雲の動きを見て、サインを見逃さないようにしてください。

写真説明:救助後、いったん待機した北ア・涸沢から再び県警ヘリに運び込まれる越中さん=昨年8月18日


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