信州山小屋ネット~朝日に染まる白銀の山々(大町市の山岳博物館から)

西駒山荘 荷下げ
西駒山荘 荷下げ

西駒山荘
西駒山荘


霧ケ峰
霧ケ峰

涸沢
涸沢

あんぜん登山の最前線~槍・穂高連峰から~(中)
2013/07/04 10:15
YAMA2013070400133801.jpg

<気象遭難の回避 変化読み判断する力を>

 濃い霧が湧き、雨が降った後、わずかな晴れ間がのぞく。6月29日、北アルプス・槍ケ岳(3180メートル)の天候は目まぐるしく変わった。

 「北アで3千メートルを超える場所の山小屋は、うちと北穂高小屋だけ。気象条件は厳しい」。頂上直下の標高3060メートルで槍ケ岳山荘を経営する穂苅康治さん(64)=松本市=は、雲間に見え隠れする槍ケ岳の穂先に視線を向けた。山荘の屋根では男性従業員がヘルメットをかぶり、複数の突起が付いた金属製の機器の点検を始めていた。雷の接近を知らせる「襲雷警報器」だ。

 「『槍の穂先』は大きな避雷針のようなもの」。穂苅さんが言うように、山頂一帯では昔から落雷事故が絶えない。警報器を設置した1980(昭和55)年以降も事故はなくならない。昨夏、山荘内に警報が鳴り響き、従業員がメガホンで穂先に登らないよう呼び掛けたが、登山者一行が穂先に向かい、60代の男性が落雷に遭って亡くなった。

 落雷を含む激しい気象変化から、登山者はどう安全を確保するのか。同山荘では、気象情報を検索するためインターネットに接続したノートパソコンを無料で使えるようにした。穂苅さん自身、タブレット型端末を使い、近年頼りにしている山岳専門の気象予報会社のサイトを頻繁に閲覧している。

   ◇   ◇

 「午後の早い時間帯は青空が広がる時があると思いますが、午後3時ごろからはにわか雨が降ると思います」。茅野市で山岳気象専門の予報会社「ヤマテン」を運営する猪熊隆之さん(42)は6月27日、自宅兼事務所の電話から顧問契約を結ぶ旅行会社に北八ケ岳の天気を伝えた。

 ヤマテンは2011年設立。槍ケ岳山荘をはじめ山小屋や旅行会社、山岳ガイド、個人登山者にスマートフォンやパソコンのサイトやメール配信で天気情報を有料で提供。旅行会社などが猪熊さんに直接相談できる顧問契約もある。

 山域ごとに翌々日まで6時間単位で天気、風向、風速の予報を出す。分かりやすい解説も添え、遭難が起きる可能性が高い気象条件では「大荒れ情報」を伝える。5月から対象エリアを全国18山域・59山(県関係6山域・22山)に広げ、天気図も加えた。

 中央大学山岳部の出身で、エベレスト(8848メートル)遠征など豊富な登山歴を生かし、地形や風の流れを分析し予報する。コンピューターに全て頼る数値予報と一線を画す手法は、ヒマラヤなど高峰を目指す遠征隊にも評判で、利用する個人登山者は約1800人に上る。5月に史上最高齢でエベレストに登頂した冒険家三浦雄一郎さん(80)の遠征を支えた会社にも情報を提供した。

   ◇   ◇

 猪熊さんは学生時代に富士山で滑落した事故が原因で、2005年に足首に骨髄炎を発症。将来を模索し「自分にしかできないことをやりたい。それが気象遭難の減少につながれば…」と、気象予報士資格を取得した。当時、山岳専門の旅行会社に勤めており、知識や技術があれば避けられた遭難事故の現場も目の当たりにした。

 最近の気象遭難の傾向について「引き返すべきポイントで、そのまま何となく突っ込んでいく」と指摘する。そこで、一般向けに山岳気象を学ぶ講習会や、山中で気象判断をする講座を全国各地で開き、登山者育成に力を注ぐ。

 気象遭難を減らすには「天気だけ読めても駄目」という。強風を予想し風のない場所にテントを張る、雷が多い夏の午後を避けて計画を立てる―。「安全登山には自分で考え、判断し、行動する総合力が必要なのです」

写真説明:槍の穂先を背に、襲雷警報器の手入れをする槍ケ岳山荘の従業員



北陸と信州・長野、新潟の観光情報が満載! 北陸・信越観光ナビ

信州山小屋ネット


掲載中の記事・写真・イラストの無断転用を禁じます
© 信濃毎日新聞 The Shinano Mainichi Shimbun